訪チャイ雑記

プラン・インターナショナルなどの援助事業を通じて知り合ったタイの子供たちを訪ね歩くチャイルド訪問旅行。その際の出来事などを書きなぐった、あくまで個人的な覚え書きです。万一、同志の参考にでもなれば嬉しいですが、責任はとれません。 質問等もコメントでご遠慮なくどうぞ。

2011-09-14

グラミン銀行は貧困救済の特効薬か?(11)

【政治】
学者でありながら始めたビジネスで伝説的な大成功を収めたユヌス氏は、後に自ら政党を立ち上げる。
この計画は失敗し、現首相との対立が激化する。
日本ではもっぱら、無能な政治家が嫉妬心と保身のために目の上のタンコブを叩いている、という構図で語られることが多いようだ。
しかし、国の貧困問題に最大の貢献をしている(と海外でも評されている)人物が、政権与党の党首兼首相から非難・攻撃されるというのはどういうことなのか?

ここで思い出されるのがタイのタクシン元首相である。
彼もまた、警察官時代に始めた通信ビジネスで大成功し、後に新政党を率いて政界へ進出した。
タクシン氏もまた貧困解消に前例のない熱意でもって取り組み、これまでないがしろにされてきた地方の農民の支持を得た。
ユヌス氏にせよ、タクシン氏にせよ、貧しい人たちへの同情が無かったとは言わない。
しかし、取った行動のみを冷静に見れば、その目的が私利私欲のためだったと取られても仕方がないようなことをやってしまっている。

財を成した人物がさらにその富を増やそうとしたとき、もっとも邪魔になるのが「政治」である。
その障壁を取り除くには、商人と悪代官よろしく結託するか、さもなくば自分自身が政治家になるしかない。
選挙とは民主主義の象徴であるが、貧困対策は実は非常に巧妙な集票工作なのである。
現在、どの国を見ても選挙は一人一票である。
これは有権者にとって厳密に公平なこと、と思われがちであるが、候補者にとっては逆に公平とはなっていないのである。
簡単に言えば、貧乏人から票を集めるのは安くつく、ということである。
たとえばタクシン氏は貧者の医療費を30バーツ均一にした。
それは医療現場からは反発を受けたが、医者の数より医療費に困っている患者のほうが圧倒的に数が多いわけだ。
その票をもとに政権をとったタクシン氏は、さまざまな法の裏を突くやりかたで、さらに巨大な富を築いた。
さすがに、貧困問題と取り組みながら、自身が国一番のお金持ちになりあがる、ってのは言い訳がきかないだろう。

政治の本来の目的は富の再分配にある、といっても過言ではない。
公共事業も教育も福祉も、すべてはそのための手段なのである。
したがって、不当に貧しい人があれば、不当に儲けた人間から富の一部が還元されなければならない。
そのためにいったん国に預けるのが税金というものなのだ。
「儲けるな」とは言わないが、誰よりも儲けている政治家というのは、存在自体が矛盾を含む、信用ならざる人間なのである。