訪チャイ雑記

プラン・インターナショナルなどの援助事業を通じて知り合ったタイの子供たちを訪ね歩くチャイルド訪問旅行。その際の出来事などを書きなぐった、あくまで個人的な覚え書きです。万一、同志の参考にでもなれば嬉しいですが、責任はとれません。 質問等もコメントでご遠慮なくどうぞ。

2011-10-12

帰省

2010年6月の訪タイ時、ランプーンの次女の実家に着くと、次女は夫と一緒に帰省していた。
次女の暮らすスコータイからの距離は、東京を起点としたら浜松辺りまで行くくらい。
年に数回帰省するくらいは簡単なものだろうと思っていたが、聞いてみてびっくり。
次女と夫はバイクの二人乗りでこの距離を走ってきたというのである。
もちろん、大型バイクではない。
スポーティなデザインにはなっているが、ベースはホンダのスーパーカブ。
排気量100cc程度で二人乗り仕様にこそなっているが、基本は街乗りであって、長距離ツーリング向きではない。
しかも高速道路ではなく、まっ黒排気ガスのバスやダンプと並走しながらだ。
「なんてことするんだ、ばか野郎。バスを使えばいいだろう」
道中で転倒でもされてたらと想像するとゾッとする。
毎年多くのタイ人が二輪の事故で簡単に死んでしまっているのだ。
今回は僕の訪問に合わせての帰省だったから、余計に責任も感じるのである。
もっとも、当人たちは特別無茶をしたという意識は無いらしく、「タイ人はバイクが好きだから」なんてことを言ってヘラヘラしてる。

その日は、僕の車で次女一家とチェンマイの動物園へ行った。
園内の水族館を見終える頃には皆歩き疲れていて、一瞬、次女がほかのメンバーと離れて一人だけでベンチに座ったことがあった。
そのタイミングを逃さず、僕は次女の前に跪き、ずっと気になっていたことを小さな声で尋ねてみた。
「立ち入ったことを聞くけど、お前、ひょっとしてお腹に子供がいたりはしないか?」
若い新婚夫婦だから、もしかしたらと思っていたのである。
次女の返事は、「わからない。でもいるかも知れない」というものだった。
つまり、兆候こそないが、可能性はゼロではないと。
それを聞いては日本の父ちゃん、もはやバイクの後部シートでスコータイまで帰らせるなんて論外である。
「バス代は出してやるからお前は絶対にバスで帰れ。旦那はバイクで一人帰らせろ。バスターミナルまでが遠いんだったら僕が送っていってやる」

そして丸一年後、再びランプーンの実家を訪問した時、そこに次女の姿は無かった。
今回は僕に会うために帰省することができないと、謝罪の手紙を出したというのだが、ちょうど日本を出たころに行き違いで届いていたことは後から知ったのである。
「どうして帰れなかったの?」とがっかりして尋ねた僕に次女の家族から返ってきたのは、彼女は今スコータイで育児中だからという答えだった。
うーん、逆算すれば一年前のあの水族館での会話、まるっきり見当外れの取り越し苦労というわけではなかったようなのである。