訪チャイ雑記

プラン・インターナショナルなどの援助事業を通じて知り合ったタイの子供たちを訪ね歩くチャイルド訪問旅行。その際の出来事などを書きなぐった、あくまで個人的な覚え書きです。万一、同志の参考にでもなれば嬉しいですが、責任はとれません。 質問等もコメントでご遠慮なくどうぞ。

2012-08-30

土産はカシオ(2)

カセサート大学構内のコンビニで五女と待ち合わせる。
長いこと待たされたところへ作業服のまま現れた彼女は、今実験の最中で、すぐまた戻らなければいけないのだと言う。
ゆっくり食事もできないというわけ。
仕方が無いので、さっそく今年の学費と土産を渡すことにする。

「ほら、これが欲しかったんだろ?」
もったいぶって手渡したのはカードサイズの百円電卓。
あっけにとられた表情で彼女が小さくつぶやいた一言は「..違う」。
「えっ、何? 電卓が欲しいって言ってただろ」
「fx-5800Pだと言いました」
「だからこれだろ」
百円電卓を彼女からひったくって開いて見せると、紙パッケージの内側にボールペンでわざと下手くそに「fx-5800P-N」と書いてある。
ここでからかわれたんだと気づきそうなものだが、恐る恐る彼女が言ったのは「でも、、Nはつかないんです」。
(いや、突っ込むのはそこじゃないだろ)
この「-N」は日本で買った商品についてた枝番で、日本語版ということなのか、はたまたマイナーチェンジ版なのか、実は今でもわかっていない。
ホンモノのパッケージの表示をそのまま書き写しただけなので、タイで販売されているものには付いていないのかもしれない。

「とにかく、お前が欲しいって言うから買ってきたんだよ、何が不満なの?」
五女がいろいろ説明しようとするが、言葉がよく判らないふりをして、コミュニケーションを遮断。
どうやら期待していた物はここに無いようだし、父さんはどんどん不機嫌になるし、言葉が通じないからうまく説明もできないし、、、。
で、ついに諦めた彼女は百円電卓を胸の前に押し頂いて一言、「ありがとう、、ございます」。

礼を言いながらも失意の表情を隠しきれない五女に勝利を確信したので、ここらで許してやることにする。
「そうそう、もう一つお土産があったんだよ」
バッグから取り出したのは、今度こそホンモノのfx-5800P。
何が起きてるかわからないって顔の彼女に、ウェブから英語版のマニュアルをダウンロードする方法を教え、百円電卓もオマケに押し付ける。
「あと一年、卒業までガンバレっ! 来年はバンコクで会おうな」
ようやく笑顔になった彼女と別れ、ドッキリ大成功に満足してその夜の宿へと向かうのであった。

土産はカシオ(1)

訪タイ前に、大学に通っている五女とチャットしたときのこと。
土産は何がいいかと聞くと、関数電卓が欲しいという。
関数電卓も最近は千円前後で買えるものがある。
「いいよ」って返事したら、すかさず「カシオのfx-5800P(笑)」ときた。
調べてみたら7千円以上する、関数電卓の中でもプログラム可能な最高級機ということでびっくりしてしまった。
(笑)とあるように、言ってみただけなのだろうが、すぐに機種名が出るあたり、本当にこれが欲しいと思っていたのは確からしい。
考えてみれば、国立大学の工学部に通っているのだから、関数電卓のひとつくらいは必需品ともいえる。
かなり予算オーバーではあるが、ここは清水の舞台から飛び降りてやろうか、と決心。
「しっかり勉強すると約束できるか?」
「はい、します!」
というわけで、さっそくアマゾンに5800Pを注文。
しかし、こんな高価な物をあっさり渡すわけにはいかない。
五女にはそれなりの対価を払わせてやる。
そこで、以前何かの記念品としてもらったカードサイズの百円電卓も持っていくことにした。
(続く)

2012-08-18

女子寮

電話連絡ができないまま、前日の夜にメールを1本送ったっきりで、未明にシーサケートを出発し、モーの通うロイエットの大学に向かった。
メールで伝えた場所につくと、大勢の学生たちが前を通り過ぎていくものの、肝心のモーは現れない。
やはりメールを読んではいないらしい。
しばらく待って、通りすがりの学生に寮の場所を尋ねてみる。
敷地の外れにある学生寮はすぐにわかった。
手前が男子寮、奥の突き当りが女子寮らしい。
車を置いて、女子寮の入り口前に立ち、出てくる女の子を一人ひとりチェック。
この段階でかなりアヤしいので、通りかかった職員らしい人に事情を説明すると、入り口脇のソファに座って待てばいいと言ってくれた。
その後もモーは出て来ないので、どうやらすでに教室に行っているらしいと結論。
彼女の名前は? 電話は? と聞いてはくれるものの、電話帳が無いんだからフルネームも電話番号もわからない。
インターネットが使えれば、彼女のプロフィールと顔写真を見てもらえるんだけど、と伝えたら、寮の前のコンピュータ室を開けてくれた。
放課後、学生たちがネットサーフィンに使うスペースらしい。
早速PCを起動するも、なかなかネットに繋がらないのは、回線がきわめて遅いからだそうだ。
イライラしながらPCを操作していると、後ろから名前を呼ばれた気がした。
振り返ってみると制服姿のモーが立っている。
どうやら、後から教室に着いた同級生に、寮の前の騒動を聞いて引き返してきたらしい。
挨拶もそこそこに、
「時間が無いんだろ?」
「はい」
「じゃ、1分だけっ!」
車に走って土産の雑誌を取ってきて押し付ける。
「じゃあ、急いで戻って。勉強しっかり。来年、また来るからね」
友人のバイクの後ろに乗って校舎に向かう彼女を見送って、一息つく。
一瞬ことばを交わしただけだったが、これで一件クリア。
普段からチャットしてるので特に話さなければならないこともなく、面会時間最短記録を更新して、いよいよサコンナコンへ向かう。

2012-08-05

米国人

娘の通っていたシーサケートの小学校へ行ったときのこと。
ひとりの背の高いアメリカ人青年を紹介された。
彼は一年前に現れて、約半年、この学校でボランティアとして英語を教えていたそうな。
その後、さらに半年かけてタイ国内を旅してまわり、いよいよ帰国を目前にして、再びこの学校へ立ち寄ったのだという。
身長が半分くらいしかない子供たちに交じってサッカーを始めたが、子供らがとても慕っているらしいことがよくわかった。
英語圏の人間は世界のどこへ行っても言葉で困ることはないし、英語を話してるってだけで子供たちのためになってる。
それに比べりゃ、日本からの訪問者ってのは、めんどくさいだけなんだろうなあ。
この点だけは本当にうらやましい

2012-08-02

失業者たち

シーサケートには撤退したプランの事務所がある。
空き家になってるか、それとも新しい住人がいるか、単純に好奇心からちょっと立ち寄ってみることにした。
驚いたことに、プランの看板がまだ出ていて、中には職員もいる。
中に入ってみると顔なじみの職員もいたが、現在撤去のための作業中とのこと。
最後の最後で「今までお世話になりました」って伝えられたのは良かったけれど、やはり心配なのは彼らの行く末。
「これからどうするの」と尋ねると、「失業だからね」「田舎に帰るよ」などなど、連中は笑いながら言うけど、聞いてるこっちは笑えない。
日本など、援助する側の国の職員は、地球上に援助を必要とする地域がある限り失業の心配は無い。
しかし、活動国の現地採用職員にとって、「活動が実を結ぶ」ことが自らの失業に直結するのである。
一流大学を出て、英語も堪能で、外国人をパートナーに仕事をこなしてきた優秀な人材でも、その地域での活動が終了すれば、職場そのものが無くなるのだ。
もちろん、他の活動地域や本部への異動なども選択肢として無いわけではない。
家族がいなければ他国で活動を続けることもできるかもしれない。
それでも大半の職員は退職を選ばざるを得ないのである。
地域の生活水準を引き上げてきたことで自分が失業するという矛盾。
せめてプランで働いてきたことが今後の彼らの仕事にもプラスになってくれれば、と願わずにはいられない