訪チャイ雑記

プラン・インターナショナルなどの援助事業を通じて知り合ったタイの子供たちを訪ね歩くチャイルド訪問旅行。その際の出来事などを書きなぐった、あくまで個人的な覚え書きです。万一、同志の参考にでもなれば嬉しいですが、責任はとれません。 質問等もコメントでご遠慮なくどうぞ。

2011-08-30

グラミン銀行は貧困救済の特効薬か?(5)

【金利】
グラミン銀行を讃える人たちは、その金利が割高なことについても意外と寛容である。
以下、あちこちで聞いた金利についてのご意見を列挙してみる。

・地方の農村で少額融資を行うには、それなりに経費がかかるので金利が高くなるのは当然。

・もともと横行している無免許高利貸しに比べれば、グラミン銀行の金利はむしろ低い方。

・バングラデシュのインフレが進めば、金利は実質的に下がったことになる。

・あまり金利を低くすると、利用者は怠けてしまう。高い金利だと必死になるので、結局それ以上にがんばって好結果が出る。

僕が「アバタもエクボ」と言ってるのは、まさにこの高金利すら長所ととらえてしまう支持者たちの言い分のことだ。

バングラデシュの農民が日本のサラ金で金を借りるところを想像してほしい。
かつてのサラ金の金利は約29パーセントであったが、いわゆるグレーゾーン金利が問題になって、現在はほぼ18パーセントを上限としている。
あなたは、バングラデシュの友人が、農機具を買いたいので日本のサラ金を紹介してほしいと頼んできたらどうしますか?
違法な闇金から「トイチ」で借りるのはマズいけど、大手のサラ金なら利用OKですか?
常にサラ金の金利くらいは背負ってないと働き甲斐が無いと本気で思っていますか?

実はグラミン銀行の金利は20パーセント、日本のサラ金よりやや高いくらいなのである。
グラミン銀行をお手本にして、発展途上国の開発援助の助けになればと、アコムやレイクやアイフルがこぞって海外進出を図ったら、日本政府も後押ししてくれるだろうか?
おそらく、あらゆる法令を遵守したとしても、多方面からボッコボコに叩かれるに違いない。
なぜユヌス氏の銀行だけが、ここまで例外的に持ち上げられるのか理解に苦しむところである。

途上国の村々に「むじんくん」や「お自動さん」ができたら貧困問題は一気に解決、、、、なんてことがあるのなら誰も苦労しないのである。

2011-08-29

グラミン銀行は貧困救済の特効薬か?(4)

【本当に儲けたのは】
電話ビジネスでは全体の向上にはならないと先に書いた。
このことを経済学者であるユヌス氏が知らないわけがない。
それなのに、模範的な成功例として携帯電話の事業を紹介するには理由がある。

実は、グラミン銀行を頂点とするグラミン・グループには携帯電話会社があるのだ。
それも国内で最も大きいシェアを持っているという。
電話会社の成否はどれだけ顧客を囲い込むかで決まる。
日本の携帯各社が思いつく限りの「シバリ」によって、簡単にキャリアを変更できないようにしてきたことはよく知られる通り。

グラミン・グループの電話会社が採った戦略は、本来ならまだ携帯電話など持てないような低所得者にも「貸付とセットで」電話を持たせることであった。
テレビにせよ電話にせよ、一度使うともう無しではいられなくなる魅力がある。
とにかく一度使わせてみろ、というわけだ。
そうして一気に電話が普及した結果、今では、先の電話貸しビジネスのほうが廃れてしまったとさえいわれている。

通信事業は現代において最も儲かるビジネスだ。
ビル・ゲイツをも超える世界一の億万長者はメキシコの電話会社のトップだし、借金まみれの警察官僚だったタイのタクシン氏が一国の政治・経済を一人で牛耳るまでになったのも、通信事業での成功がきっかけだった。

グラミン・グループもまた、抜かりなく、すべての国民から広く浅く収益を得ることのできるこの業種を重要視しているわけだ。
収入が少なくて税金を納めていない者でさえ、電話会社への支払いは続ける。
大勢のテレホンレディのささやかな成功がユヌス氏自身の大成功をささえているのだ。
そうして自身が大儲けしたとしても、それが貧しい女性たちの自立に貢献していると宣伝できるなら、まさに一石二鳥である。

2011-08-28

グラミン銀行は貧困救済の特効薬か?(3)

【実は儲かっていない】
グラミン銀行による融資の成功例として次のような事例が紹介されることがある。
融資を受けた女性は携帯電話を買い、近隣の電話を持たない人に有料で使わせる。
こうした電話ビジネスでちょっとした成功を収め、借金も無事完済した。

これも昔の日本を思い出してみよう。
固定電話がとても高額だった昭和の中期、電話のある家は隣近所に当たり前のように電話を貸していた。
今では考えられないが、そのために電話は玄関かその近くに設置するのが普通だったのである。
しかし、それで儲かった、なんて話は聞いたことがない。
なぜなら、それで儲かるのなら、誰もが借金してでも自分の家に電話を引くからである。

先のバングラデシュの事例でいえば、Aさんがそれで成功するなら、Bさんも同じことを始めるはずである。
しかし、そうすればたちまちその地域でのシェアは半分になる。
Cさんが参入すればもはや事業として成り立たないかもしれない。
つまり、これは独占事業でなければ成功しないビジネスモデルなのである。

確かに、Aさんが地域でこの事業を独占できていれば、彼女はビジネスの成功者といえるかもしれない。
しかし、それは住民がそれぞれに利用料を支払った結果であり、Aさん以外は全員資産を減らしているわけだ。
モノを生み出すわけでなく、単なる消費活動に過ぎない電話ビジネスは、Aさんを除く利用者全員をさらなる貧困へと向かわせているのだ。
Aさんの村全体でいえば資産の総額は変わっていないのに、Aさんに偏ることで一見Aさんが貧困から抜け出たように見えるだけなのである。
その上、Aさんが電話会社に通話料を払い、電話機購入の際の借金を返済していけば、村の資産はトータルでも減っていることになる。

2011-08-27

グラミン銀行は貧困救済の特効薬か?(2)

【相互監視制度】
暴力的取り立てをおこなわないグラミン銀行がそれなりに高い返済率を維持した背景に、借り手をグループ化するシステムがあることはよく知られている。
いわゆる連帯保証人のようなものではないとされているが、メンバーが事業に失敗した場合、「返済に協力する」、というよりは「取立てに協力する」側ににまわり兼ねない。

これもまた日本に同様の前例がある。
戦時中の「隣組」は、歌の文句にもあるとおり、常時・非常時にお互いが助け合ったりすることが建前であり、実際にそのように機能していた。
しかし、このような仕組みが相互監視制度としてもきわめて有効であることは論を待たない。
思想や行動を互いに監視しあうという状況は、戦況が悪化した時期においては尚のこと、全国で多くの諍いや疑心暗鬼を生んだに違いない。
グラミン銀行の利用者グループにおいても、事業がうまくいかなくなったとき、ご近所さんや親せきが有形無形の圧力をかけてくることになったと思われる。
借金を踏み倒して逃げることすらできないし、村で仲間外れにされるくらいなら、明日の米や鍋釜を売ってでも借金返済を優先することになろう。

都会で暮らす個人に金を貸した場合は暴力的取り立てがもっとも有効であるが、地方のムラ社会に住む者に貸した金はその社会に取り立てさせるのが効果的なのである。
ようするに、グラミン銀行からの取り立てにヤクザがやって来ないのは、単にそれ以上に効率的な社会システムがあって、そちらを利用していたからに過ぎないのである。

2011-08-26

グラミン銀行は貧困解消の特効薬か?(1)

【悪しき前例がある】
ユヌス氏が始めたとされる貧困者、特に女性への少額融資は、起業意欲があるにもかかわらず通常の銀行が融資を渋るような人を対象にしていることが画期的であるとされる。
本来なら返済が滞るリスクが大きいため、事業として成功するわけがないと一般には考えられているらしい。
それをうまくやってのけたことから、ユヌス氏の能力を経済の専門家ですら高く評価することになったのである。
しかし、こういったシステムを構築したのはユヌス氏が最初ではない。
日本にもほとんど同じ仕組みが存在し、そして大成功をおさめてきた実績がある。

それは現在ほど規制を受けていない時代の消費者金融、いわゆるサラ金である。
サラ金の第一次ブームは70年代、担保も無しで金を貸し、高利であるにもかかわらず高い返済率を示し、利用者も急増、多くの業者が急成長を遂げた。
まさにユヌス氏の興したグラミン銀行と同様である。
ところが、たちまちそれは社会問題となった。
厳しい取り立てによって自殺者が相次ぎ、死んでなお、その保険金が借金返済に充てられるという、まさにサラ金地獄と呼ばれる事態になってしまったのである。
これは調子に乗ったサラ金業界が「やり過ぎて」しまった結果である。
世間はサラ金を利用しながらも、それを恐ろしいものと認識するようになり、業界では、以後、生き残りのためのイメージアップがもっとも重要な戦略となるのである。

ユヌス氏のやり方で初期の日本のサラ金と違う点があるとすれば、いずれ自分の首を絞めることになる暴力的取り立てをおこなわなかったという一点のみなのである。

2011-08-25

ここらでちょっと

ここの更新がすっかり止まってしまってました。
仕事上のあれこれが重なって本当に寝る間も無かったところへ、頭に腫瘍ができるは、胃にポリープができるは、PCが続けて2台も壊れるは、ってわけで、てんてこ舞いだったのでした。
まだまだ訪タイ時のことを書き留めておかなければならないのですが、ここは一つ、仕切り直しの意味で少々別の話題をしばらく書いておこうと思います。

実は、海外援助に関わるあれやこれやの「思い違い」について、一度まとめておかなければ、と前々から思っていました。
結構多くの人が勘違いしてしまっていて、世間ではそれが常識として通用しているようなことがあります。
その辺をちょっと検証しておこうというわけです。

で、最初に取り上げるのがバングラデシュにおいて少額融資のシステムを定着させたムハマド・ユヌス氏についてです。
まずこれを書こうと思ったのは、プラン・スポンサーの会のNさんが、「ユヌス=貧困解消の救世主」みたいに崇め奉っていて、そりゃ違うでしょという説明にまったく耳を貸さないからなのであります。
つまり、以後数回にわたる予定のこの文章は、ひとり、彼女にじっくりと読んでもらいたい、というのが動機になっています。
同様にユヌス大好きな人にとっては面白くない内容になると思いますが、アバタまでエクボに見えだしたら、誰かが水を差すようなことも必要でしょう。
ということで、次回からしばらくノーベル平和賞受賞者・ムハマド・ユヌスの悪口を書き連ねていくことにします。