訪チャイ雑記

プラン・インターナショナルなどの援助事業を通じて知り合ったタイの子供たちを訪ね歩くチャイルド訪問旅行。その際の出来事などを書きなぐった、あくまで個人的な覚え書きです。万一、同志の参考にでもなれば嬉しいですが、責任はとれません。 質問等もコメントでご遠慮なくどうぞ。

2007-12-31

鉄道デビュー(その3)

列車を間違えたために、コンケーンに近づく頃はすっかり暗くなってしまっていた。
真っ暗な窓の外を見るでもなく眺めていると、乗客の一人が近づいて声をかけてきた。
「タイ語は話せますか?」
いきなり旅行者に話しかけるヤツにろくなのはいない。
ここは相手にしないに限る。「いや」
「キャン ユー スピーク イングリッシュ?」
しつこいな。「ノー」
それで相手は困ったように立ちつくしてしまったが、やがて、一語一語、間をおいてこう言った。
「ネクスト、ステーション、コンケーン。ユー、ゴー、コンケーン。OK?」

あまりに予想外の展開だったので、状況を理解するのに時間がかかってしまった。
彼はおそらく、コラートで駅員と車掌の会話を聞いていて、この日本人が今度はコンケーンを乗り過ごしてしまうのではないかと心配して、ずっと気にかけて見守っていたのである。
そして、彼がひとつ手前の駅で降りる際に、初めてアドバイスのために近づいてきたのだ。
事情がわかって、あわててお礼を言おうと思ったときには、すでに停車していた列車から、彼は降りてしまっていて、もう見分けられない。
ずーっと心配していてくれた人に対して、なんて無愛想な対応をしてしまったことか。
些細なことではあるが、気持ちの問題だけに悔いが残る。

このときの十数秒の会話ともいえない会話をした、顔もろくに見ていない、どこの誰とも知らないタイ青年の存在は、僕がタイ人大好きになった大きな理由の一つなのである。
今度同じ状況になったら気持ちよく親切を受けたい、というわけで、今も機会があればワクワクしながら列車を利用している。

2007-12-23

鉄道デビュー(その2)

おばさんが車掌に事情を説明してくれたらしい。
「次の駅で降ろしてあげるから、私が迎えに来るまでここにいなさい」
その車掌Aはそう言ったとおり、次の駅に着くころに再びやってきて、ホームまで一緒に降りてくれた。
そして、そこにいた駅員Bにこう告げた。
「この日本人は乗り間違えたらしいので、次の列車でコラートまで送り返してやってくれ」
それを聞いた駅員Bは、これまた「列車が来たら教えてあげるから、この場所でじっと待っていなさい」
もはや迷子の子供扱いである。

そしてやってきた列車に乗せてくれるとき、今度は駅員Bがその列車の車掌Cに告げた。
「この日本人は列車を乗り間違えたので、コラートで乗り換えさせてやってくれ」
この車掌Cは自分の席の近くに連れて行ってくれ、コラートまで戻ると、またまた当然のように、コラートの駅員Dに言った。
「この日本人は乗り間違えていたので、次のコンケーン行きに乗せてやってくれ」
放っておくと同じ間違いを繰り返すとでも思ったのであろうか、ほとんど連行されるようにして、コンケーン行きの列車に乗せられたのであった。
まるでリレーのバトンになったような気分である。
もう鉄道旅行はコリゴリだと、そのときは思ったものである。

2007-12-18

鉄道デビュー(その1)

初めてタイへ行ったとき、初めて鉄道にも乗った。
かなり昔のことになるが、忘れもしない、コラートから長女の住むコンケーンへ向かうときのことである。

町外れの駅までは歩いていって、少し待った後、定時にやってきた列車に乗り込んだ。
やはり旅は汽車に限る。汚い車両、大きな荷物を積み込む人びと、窓越しに食べ物を売る女の子、、、。
動き出した車窓から見える景色は、たちまち木々もまばらな荒野にかわる。
いやでも旅情は高まり、脳内ではいつの間にか小林旭が「北帰行」を歌い始めている。
(イサーンの赤い大地が俺を呼んでるぜ、、、)気分はもう、北へ向かう渡り鳥である。

しばらくして、向かいに座っていたおばさんが尋ねた。
「日本人? どこまで行くの?」
「コンケーンです」
「?? いや、コンケーンだったらあっちだよ」
列車の進行方向と逆を指差して、あきれたようにおばさんが言った。
「えーーーっ!!」

定時に出たと思っていたのは、遅れていた一本前の別の列車だった。
そう、ここは日本ではなくタイなのである。定時に出るほうがおかしいと思わなければ。

コラートを出た列車は、すぐ先で東行きと北行きに分岐することになっているが、乗り間違えた列車はコンケーンのある北ではなく、ウボンへ向かう東行きだったのだ。

2007-12-10

240万円、売られるタイ人

12月9日朝日新聞の見出しである。
同紙の記者が人身売買組織に接触した記事がタイでの現地ルポとして掲載された。
言葉巧みに借金を負わせ、逃げられないようにした上で日本で違法に働かせるというもの。
もとより、売春を強要するなどの極悪組織犯罪なのであるが、当の被害者がなんともあっさり騙される。

実は、以前、長女が引っかかりそうになったことがある。
たまたま手紙でいきさつを書いてきたので、大慌てで返事を書いた。
どういった手口で、どう騙して、どんな目にあうか、タイのサイトで調べた情報をもとに詳しく知らせた上で、ギリギリで思いとどまらせたのだった。
こうした類の事件は少なくないのであるが、田舎者にはそもそも情報が届かない。
ネットで調べられる日本人の方が詳しかったりするわけだ。
長女は出稼ぎ先でどれほど稼げるかを嬉しそうに書いてきた。
何年で借金を返済し、残り何年でいくら残せる、って。
もちろん、そんなうまい話があるわけはなく、さんざん働かされたうえに借金だけが残るのが関の山なのだ。

日本ですら、しっかり啓蒙されているはずの振り込め詐欺や霊感商法でいまだに被害者が出続けている。
情報に疎いタイの田舎の純朴娘は、まだまだこれからも騙され続けるだろう。

タイのテレビでミュージックビデオを見ていたら、日本へ渡った娘がヤクザに脅され、ボロボロになって、最後は病院で息をひきとるっていう映像が流れていた。
娘を案じつつ帰りを待っている老母の姿も流れる。
こういったメディアを通じて、少しでも犯罪の実態が知られるなら、それもありなんだけど、ニホンは怖い、って言わなきゃならんのもつらいところではある。
そういえば、昔、日本人がヤクザに売り飛ばされる先といえば、もっぱらホンコンだったっけ。