九日目・ビーチでイッパイ
一応、学校を休んで待ってはいるわけだが、都会へ出て行った親戚が一年ぶりに帰省した、といった程度の雰囲気である。
こちらもまた、実家に戻ったような感覚なので、勝手に縁台に上がってゴザに寝転がる。
とにかく力を抜いてゴロゴロしていないと暑いのだ。
といっても、家には何も無いので、四男と湖まで自転車で遊びに行くことにした。
700メートル先に大きな湖があり、その名も「パタヤ2」という、ちょっとした海水浴場のような行楽地になっているのである。
水上を渡ってくる風は気持ちよく、あちこちの木陰でいくつものグループが涼んでいる。
その中の一組は、男ばかり7~8人の集まりだったが、地べたに車座になって座り込んでいた。
最初は、日本でもよく見かけるヤンキーどもかと思って様子を窺がっていたが、一人が弾くギターに合わせてみんなで歌を歌ったり、何事かを熱心に議論したりしているのだった。
タイの公園などではよくこういった若者たちを見かける。
日活青春路線を地で行くようなひとコマであるが、映画と違うのは、野郎ばかりでヒロインが交ざっていないこと。
と、目が合った彼らが会釈をしてきたので、こちらも近づいて挨拶。
「中国人ですか?」
「いや、日本人」
「これを一緒にどうですか?」
差し出されたのは真っ赤な液体の入ったビンである。
「何それ?」
「酒ですよ」
悪い連中ではなさそうなので、逆に断りきれない。
渡された汚いコップに注いでくれたものを、(アルコールならあたりはしないだろう)と、一気に飲み干す。
「うわー、キツイ!」
酔ったポーズでおどけてみせて、お代わりは遠慮する。
いつの間にやら、すっかり仲間に入れてもらっていたが、乏しい語彙が尽きたところで帰ることにした。
別れ際には「アリガト」「サヨナラ」と片言の日本語を繰り返しながら笑顔でいつまでも手を振ってくれる。
こういった些細なふれあいが、どんな名所・名物よりも、その土地の好印象につながっているような気がする。