携帯電話
向かいの座席に座った青年が持っていたそれは、かなり古い型のストレートタイプ。
なんと、前面のケースが無くて、基板がむき出しなのである。
基板や電池が落ちないように、何本かの輪ゴムが巻きつけてある。
当然、ボタン部分も接点がむき出しである。
(使えるのか、それ?)
道端に落ちていても誰も拾わないような、その携帯電話を左手に持った彼は、続いてポケットからボールペンを取り出し、そのペン先で剥き出しの基盤をつつきだしたのである。
驚いたことに、それで電話は通じたらしく、用件を話し終えた彼は、再びペン先で基板を一突きした後、それらをポケットにしまいこんだ。
通話料金が安い分、本体価格が高いので、日本のように簡単に買い替えができないのであろうが、そこまで使い切るかと、感心させられてしまった。
最近、可動部にガタのある自分の電話機を新調しようかと考えているのであるが、あの電話を思い出してしまうと、後ろめたさを感じてしまって仕方ないのである。